第2章 相合い傘の魔法<徳川家康>
「あんたを迎えに来るんだったら、傘もう一本持ってくると思うけど」
「そ、そうだよね…」
それもそうだと、少し恥ずかしくなった桜が俯くと、小さく笑う声が頭上から降ってくる。
見上げると、家康があまり見せない顔で微笑んでいて、桜の心臓がどくんと跳ねる。
「ほんとあんたって、素直すぎる」
「え・・・」
何のことを言っているのか分からないでいると、家康に軽く額をこづかれた。
「桜を迎えに来たに…決まってるでしょ」
「え、あ、ありがとう…」
不意打ちの言葉に、桜の顔がみるみる赤く染まる。
「でも、じゃあ何で傘が一本なの?」
「…あんた、ちっちゃいから。一本で、十分でしょ」
桜の疑問に、そっけなく答える家康の顔もまた、ほんのりと赤くなっていて、天邪鬼な彼の本音が見えてくる。
その横顔を見ていると、どうしようもない幸福感に包まれて、桜の顔も緩んでしまう。
「ふらふら歩いてると、濡れるよ」
「あ…」
傘を右手に持ち替えた家康が、桜の腰を左手で引き、抱き寄せた。
そしてそのまま、立ち止まって桜の頬に口づける。
せっかく引いていた顔の赤みが、家康の行為によってさらに増し、唇が触れた頬が熱い。
「いっ、家康!?見られたら…」
「傘で、見えない」
そう言うと、家康は桜の顎に手をかけて、今度は唇を重ねた。
「…っ…!」
「ほら、帰るよ」
涼しい顔をした家康が、もはやゆでだこのような顔で立ち尽くす桜を促す。
やっと歩き出しても、顔は真っ赤なまま、家康の顔を見ることもままならない。
「なんか今日の家康、変。政宗みたい」
「…あの人と一緒にはされたくないんだけど」
ぶつぶつと口では文句を言っていても、その顔は穏やかで、それを盗み見た桜の顔にもまた、微笑みが浮かんでいた。
終