第31章 キューピッドは語る Side:M <豊臣秀吉>
「おう、来たな。さとみ、好きなとこ座れ」
「ありがとう、政宗」
丁度広間を出ていこうとしていた政宗と入れ違うようにして、さとみがゆっくりと広間へ入って来た。そのまま秀吉のそばを素通りして、家康の方へ寄っていく。
食事会ではいい雰囲気だったと聞いたが…やはりそうすぐに上手くは立ち回れないか。
「家康、隣いい?」
「いいけど…。せっかくなんだから、秀吉さんの隣に行けば」
「無理無理無理無理」
「なんでだよ…」
コソコソと小声で言い合う二人の声が、俺には丸聞こえだ。家康も、俺に対して隠すことはないからな。
今秀吉の隣に腰を下ろしている三成と場所を変わればいい、だとか、俺が連れて行ってやろうか、だとか。普段の家康からは考えられないような優しい言葉が聞こえてくるけれど、さとみは首を縦に振らないな。
中腰になった家康がさとみの腕を掴んで、半ば無理矢理立ち上がらせようとしているが、断固として動こうとしない。
「さとみ、そんな事じゃいつまでたっても…」
「いい加減にしろ、家康」
「…はい?」
さとみを説得しようとしていた家康にかけられたのは、重く低い怒気を含んだ声だった。ざわついていた広間は、しんと水を打ったように静かになる。
おお、動き出したぞ、秀吉が。心が躍ってしまうな。
声の主が秀吉であることに、少なからず驚いた様子の家康が、その顔を向ければ。つかつかと歩み寄って来た秀吉が、さとみの腕を掴んでいた家康の手を振りほどく。
「お前にはずっと言いたかったことがある。皆もいるし、ちょうどいい機会だ。今ここで言わせてもらうぞ」
「何ですか」
不穏な空気を感じ取った家康が、秀吉にしっかりと正面から向き合った。喧嘩なら買ってやる、とでも言いたげな挑戦的な目つき。
さあ、秀吉。
せいぜい俺を笑わせてくれ。