第31章 キューピッドは語る Side:M <豊臣秀吉>
「俺のことを秀吉さんが勘違いしてる限り、一人で動いても埒があかないんで…協力してください」
不本意そうに顔をしかめながらも、家康は俺の目を真っ直ぐ見てそう言葉にした。ほう、珍しいこともある。
「お前が俺に頼むとはな」
「本当は政宗さんに頼みたかったんですけど、忙しそうなんで」
「俺達は暇、というわけか」
仕方なく頼んだという姿勢を隠そうともしない所は、相変わらずだな。まあ、俺は軍議のために行う仕事は既に済ませてあるから、一向に構わないが。
「言っときますけど、俺は、暇じゃありません。この面倒事をどうにかしないと、仕事が進まない」
「俺は」をやたら強調して、家康が呟いた。いつ以来だろうな、仕事以外のことにこいつが積極的になっているのを見るのは。
このまま三人を観察しておくというのも相当に魅力的な話だ…が、いいだろう。策を弄するのは得意だ。一肌脱いでやることにしようか。
「さとみに秀吉の想いを伝えていないのか」
「何度も匂わせましたけど、信じませんね。冗談だと思ってるみたいです」
「ならばいっそ、お前が二人の想いを繋げてやれ」
これが最も手っ取り早いだろう。
二人に手を取り合わせて、互いに好いている事を分からせてやればいい。
「なんで俺がそんな事まで」
俺の提案にはしかし、家康は眉根を寄せてそう吐き捨てた。
「嫌か?一番簡潔だと思うが」
「子どもじゃあるまいし、自分でどうにか出来ないくせに恋仲になろうなんて、図々しいにも程があります」
あくまでも最終的には本人達に行動させるつもりか。しかし、随分な言われようだ。
家康が政宗に相談していたら、真っ先にこの案が採用されていそうだがな…しかも恐らく、強行。
「それならば、影からこっそり動くか。よし、手始めに秀吉の様子でも見に行くとしよう」
「秀吉さんなら今頃、城にいるはずですけど…様子を見て何か分かるんですか」
飲み終わった湯呑みを丁寧に隅に寄せて、家康が俺に続いて立ち上がる。分かっていないな、こいつは。
「さとみをお前に取られたと思っているんだろう?秀吉がしょぼくれてる所を見逃すわけにはいかない」
「なんですかそれ…」
俺の後から、大きなため息が追いかけてくる。