第31章 キューピッドは語る Side:M <豊臣秀吉>
「…それで、俺の所に泣きつきに来たと言う訳か」
「変な言い方しないで下さい。俺だけじゃもう手に負えないんです、あの人達は」
憤まんやる方無い、と言った顔をした家康の顔を見ていると、じわりと笑いが込み上げてくる。
さとみと秀吉が互いに想いあっている事などとうに知っていたが、まさか家康をも巻き込んで、そんな事態に発展していたとは思わなかった。
「笑い事じゃないんですけど…光秀さん」
家康がじろりと俺を睨む。おっと、面白がっている事がばれたか。だがな家康、これほどまでに笑える話はなかなかないぞ。
これまでの経緯に加えて、ついさっき終わったばかりだという食事会での騒動を俺に語った家康は今、失った潤いを取り戻そうと湯呑みを傾けている。
「仕方ないだろう、俺にとっては他人事でしかない。それで、さとみはどうしたんだ?」
「一連の事について落ち込んだり喜んだり…煩くて仕方ないんで、部屋に押し込めてきましたけど」
「なるほどな。話を聞いてやりながら部屋まで送って来た、と」
「…そうは、言ってません」
俺の指摘に居心地が悪そうに顔を逸らした家康の顔には、「やっぱり光秀さんなんかに相談するんじゃなかった」とはっきり書いてある。
もう遅いぞ、こんな面白い事に首を突っ込むなと言われても無理な話だ。全部、聞いてしまったしな。
「要するに、愛しいさとみを幸せにしてやりたいんだろう」
「勝手におかしな形容詞付けないで貰えませんか」
「そう照れるな」
「照れてません」
俺を睨む家康の顔がどんどん不機嫌になっていく。このままこいつを苛めて楽しむのもいいが…まあ、これくらいにしておいてやるか。
ゴホンと咳払いした家康に、表情を少しだけ引き締めて向き合った。
「あの娘に正攻法を取らせるのは無理というものだろう。そんな事で秀吉に想いが伝えられるなら、とっくに自分で行動を起こしているだろうからな」
「…確かに、そうですね」
「秀吉は秀吉で、さとみはお前と好き合ってると思っているわけだ。秀吉に行動させるには、これをどうにかしなくてはな…」
ふむ、どうしたものか。
思考に浸るふりをしながら口許に手を当てて、再度込み上げてくる笑いを隠した。改めて言葉にすれば、なんとも笑える。