第30章 キューピッドは語る Side:I <豊臣秀吉>
俺は何気ない風を装って、口を開いた。出来るだけ不本意そうに。
「…そういえば、さっきさとみが」
「さとみ?」
さとみの名前が出た途端、秀吉さんの顔が綻んだ。ほんと嬉しそうな顔しますね、あんた。
「秀吉さんを探してましたよ」
別に、嘘じゃない。あの子がいつも秀吉さんを追いかけてるのは、ほんとだし。それに、これで二人が恋仲になるのなら、何の問題もないでしょ。
「そうか…じゃあ先に会いに行った方がいいな」
「ええ、そうして下さい」
さとみの部屋の方へ秀吉さんが歩いて行くのを、後ろからついて行く。秀吉さんの足取りが軽すぎて、笑える。背中に羽でも生えてるんじゃないの。
「さとみ、いるか」
最後の角で立ち止まって、耳を傾ける。秀吉さんは部屋の外からさとみに呼びかけてるけど…うん、いて良かった。
「秀吉さん、どうしたの?」
「俺の事をお前が呼んでるって聞いたんだが…違ったか?」
「えっ?」
ほら、さとみ。丁度いいでしょ。この際だから、好きでも何でも、伝えなよ。後の事なんて考えて躊躇してても、仕方ないんだから。
「……」
ちょっと…何か言って。
「俺の勘違いだったみたいだな、すまん」
「ううん、大丈夫!えっと…」
俺の御殿に来る時の騒々しさは何処に行ったの?ああもう、ただでさえ暑いのに、余計いらいらする。
「さとみ。声かけついでに、良かったら一緒に昼でもどうだ?」
おお、秀吉さんからいった。さとみ、当然行くよね。
「あ…ごめんなさい、無理っ」
「そ、そうか…急に誘って悪かった」
ちょっ…!
なんで断るの。
というか、何その断り方。
そんな言い方したら、拒絶してるみたいに聞こえるでしょ。
「じゃあ、俺は御殿に戻るからな」
「う、うん…」
あ、やばい。隠れよう。
そばの部屋に慌てて入って、襖の隙間から秀吉さんの様子を覗いた。うわ…秀吉さん、明らかに落ち込んでる。羽、折れてる。
あーあ…。