第29章 夜が明けたら <明智光秀>
抱き締め合ったその状態のまま、光秀はおもむろに立ち上がった。驚いたようにしがみ付いてくる桜を、しっかりと抱え直す。
「戻るぞ、桜。さすがに冷える」
「はい…でも」
桜の言いたい事が分かる光秀は、わざと抱く手に力を込めた。降ろすつもりはない。
「部屋に着いたら、温めてくれるな?」
「またお茶、ですよね…?」
「さて、どうかな」
ニヤリ、と笑って見つめてみせれば、桜は真っ赤になって顔を伏せた。光秀の胸元に顔を隠す仕草が可愛くて、頬が緩む。
部屋に戻った後は、言葉通りに温め合う。甘く熱い夜が更け、二人仲良く眠りについた。
「ん…」
まだ朝日が昇って間もない時間。腕の中にいる桜が身じろぎする気配に、光秀の意識がぼんやりと浮上する。
ぱちり、と目を開ければ、一足先に起きていた桜が自分を見ている。
「おはようございます…光秀さん」
ふにゃり、とした柔らかな笑顔。まだ半分寝ぼけているような、とろけるような表情。
「ああ、おはよう」
そう返せば、嬉しそうに桜の顔が綻んだ。
「ありがとう、桜」
「へ?何が、ですか」
きょとんとした桜に、光秀はただ笑みを向けた。言葉を返す代わりに、額に唇で触れる。
「まだ早い、もう少し寝ていろ」
「はい…」
大人しく目を閉じた桜の額に、もう一度。ほどなくして静かな寝息を立て始めた桜の頭を優しく撫でた。
「愛しているよ、桜」
極上の贈り物を受けとって、喜びに震える胸に、桜の体をさらに抱き寄せた。そのまま、自分も幸せな微睡の中へと落ちていく。
…ああ。
温かい。
終
2016.10.04
HAPPY BIRTH DAY!!