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【イケメン戦国】紫陽花物語

第28章 それゆけ、謙信様!*遁走編*




あまりに桜が無邪気に笑うものだから、謙信の表情も知らず柔らかく緩んでいた。戦をするのをやめることはないけれど、桜が探してくれるのなら、戦以外の生き甲斐も見つかるかもしれない。


あるいは、既に見つけている。


自分の腕の中で穏やかに笑う桜の温かさが、謙信の胸中を甘く絆していく。

この温もりを手放すことなど、もはや到底出来るはずもない。自分以外の者のそばに桜がいることを考えるだけで、気が狂いそうなほどの感情が湧いてくる。

桜の視線の先にいるのは自分だけでいい。あわよくば本当に、閉じ込めてずっと愛でていたいけれど、それは出来ない。

だから。



「桜、もし何かあれば、些細な事でも必ず俺に報せろ。お前には、何も不自由させるつもりはない」

「はい、ありがとうございます」

「それから、言い寄ってくる男がいればすぐに言え。俺がすぐにでも斬り捨てる」

「えーっと…覚えておきます」



若干顔を引きつらせた桜の返事にも、謙信は満足げに笑った。

これでいい。桜を閉じ込めておくのが無理なら、邪魔なものを排除すればいいだけだ。



「謙信、少し休憩しないか。俺達は安土から走りっぱなしだ」

「休憩ならもう済ませた。休みたければ勝手にすればいいだろう」

「お前は、もう少し協調性って言うものをだな…」

「…うるさい」



信玄から馬を離すように、謙信はさらに速度を上げた。佐助達の声も聞こえないふりをして、ただ風を切る。

揺れる馬に舌を噛まないように気を付けて、桜は小さく笑った。春日山の武将達のやり取りも、安土に負けず劣らず無茶苦茶で。



「どうした、桜」

「いえ…楽しくて」

「…そうか」



目を細めた謙信が、見上げてくる桜の額に愛しげに口づけを落とした。こうして桜と愛を交わすたび、謙信の生き方は変わっていくだろう。


一頭の馬が、愛し合う男女を乗せて駆ける。それはきっと、幸せな二人の果てしない旅の始まり。


今日はいい天気だ。
そして明日も、その先も。





20161030
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