第21章 温泉旅行へ*三成エンド*
朝であることを疑いたくなるほどの、曇天。雲に覆われた空は暗く重く、陰鬱とした雰囲気を宿全体にも落としている。
「道中で降ってこなきゃいいがな」
「そうですね」
朝食に呼びに来てくれた秀吉と共に、三成は廊下を行く。数刻後には城へ向けて出発する事を思い、三成は少し安堵していた。
心配していたことは、起こらなかったな。
しかし、前から政宗が険しい顔をしてやってくるのを見て、その気持ちが陰る。
「おい、桜どこだ」
「さっき起こしに行ったけど、部屋にはいなかったぞ?散歩でもしてるんじゃないのか」
秀吉の言葉に、政宗は首を横に振る。突然重く変わってしまった空模様のような胸騒ぎを覚えて、三成の体が芯から冷えていく。
「履物がある。風呂かとも思ったが、いない。光秀達にも聞いたが、朝から誰も見ていない」
「何だと」
まさか。
「政宗様。…吉次殿には、お会いになりましたか?」
「…吉次?いや、見てない。何故だ」
ああ…恐れていたことが。
後悔する時間も惜しんで、既に深く思考を巡らし始めた三成には、政宗の疑問が聞こえていない。しばらくしてぱっと顔を上げると、三成の様子を伺っていた二人をみつめた。
「私に心当たりがあります」
「本当か」
「はい、ですが確信はありません。念のために、手分けして桜様をお探しした方がいいかと」
三成の言葉に頷いた二人が、他の仲間に声をかけにいくのを見送って。三成は一人足早に玄関へ向かう。
いくら情報を得て有事に備えていても、何の意味もない。
朝の段階で跡形もないということは、夜の間に何かあったのだ。隣室であった自分がのうのうと眠っていた時、桜がどんな思いをしていたかと想像すると堪らない気持ちになる。
頭の中にある周囲の地理を完璧に再現しながら、三成は迷いなく歩を進める。
無心で歩く三成の脳裏に、昨日の女中との会話が、鮮明に蘇ってくる。