第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
その後は、ろくに会話もないままで、濡れた格好で宿の玄関まで戻った。呼べば、酔いがすっかりさめた秀吉が駆けつけてくる。
最初こそ昼食の小言を言おうとしていたけれど、すぐに桜の異変に気が付いた。さっさと風呂へ促してしまい、別れの名残を惜しむ暇もない。
理性を飛ばすな、等と牽制してみせる。だがそれは、余程自分に言わなければいけなかったと、一人自嘲気味に笑う。
「御館様がお怒りだ」
秀吉の言葉にも別に驚きはしない。
「ただいま戻りました」
広間へ戻ると、秀吉を除く全員が揃い、光秀を出迎えた。信長は無言で頷いてみせる。険しい顔の政宗が、我慢出来ない様子で声をあげた。
「光秀、やりやがったな」
「何のことだ?」
「とぼけるな。重箱まで用意させたらしいじゃねえか。昼飯まで一緒だと、お前だけ長いだろ」
「せこいな、政宗」
「何だとっ」
眉を吊り上げて怒る政宗が面白くて、ついからかってしまう。今にも胸倉に掴みかかってきそうだ。
「政宗様。落ち着いて下さい」
「三成も何か言ってやれ」
「そうですね……舟はどうでした?」
「今それはどうでもいいっ」
三成にまで食って掛かる政宗が、興奮しすぎて肩で息をしている。
「俺は、別に言いたい事があるんですけど」
政宗の暴れっぷりを静観していた家康が、ぼそりと言って光秀を睨む。何の心当たりもなくて、一瞬真顔になって尋ねた。
「何だ?」
「三成に妙な事吹き込むの、やめて下さい」
ああ、忘れていた。
思い出して、意地悪な笑みがこぼれる。
「妙な事を言った覚えはないのだが…三成、家康には会えたのか?」
「はい、光秀様のおかげで、あの後お会いすることが出来ました」
きらきらとした笑みの向こうで、家康が心底不快そうなため息。