第4章 ずぶ濡れの恋心<真田幸村>
季節は梅雨。
連日の長雨で、田畑は潤い水の心配も無くなり、良いことづくめ…なのだが。
「こうも雨ばっかだと、さすがに嫌になるよなー」
安土城下のとある長屋で、幸村が佐助相手にボヤいている。
雨ばかりでは、万が一戦にでもなろうものなら視界も悪いし地面はぬかるむし、良いことはあまりない。
それに何より、
「桜に会いてぇな…」
「幸村…それ、もう三回目」
眼鏡を外して手入れしていた佐助が顔を上げて、雪村の顔を見た。思いがけない言葉に、幸村は動揺する。
「えっ、嘘」
「そんなに会いたいなら、俺が呼びに行ってこようか」
「…何て言って呼ぶんだ」
「幸村が、桜さんに会いたくて会いたくて震えてるって」
「震えてねーよ!」
佐助がねじ込んできた分かりにくいボケに突っ込み、幸村は外に目をやった。
晴れているとき、桜は行商をする自分の元へよく会いに来てくれる。しかし、雨が降っていては店も出せないし、こうして仕方なく部屋の中で燻っているしかない。
「暇だし、ちょっと散歩でも行ってくる。…来る?」
「あー…いや、いい」
ぼーっとしている幸村を置いて、佐助は傘を手に外へと出かけて行った。
桜は、今頃何をしているだろう。
得意の針子の仕事に精を出しているかもしれない。そういえば、以前見せてもらった着物はとても綺麗な出来だった。
あいつの作る着物をいつか俺も…