第16章 温泉旅行へ*2日目昼編*
「何してるの、ぶつかるでしょ」
「ありがとうございます…」
「子どもじゃないんだから、急に走り出さないの」
「はい…すみません…」
自分の行動が今になって恥ずかしくなる。何故か敬語で小さくなる桜をふっと笑って、家康がそのまま手を引いた。
「仕方ないな…ほら、行くよ」
「…うん」
今度はしっかりと確認してから、二人で通りを横切る。店の前まで来て、じっと商品を見る家康。
「買いたいもの、あった?」
「うん…少し、待ってて」
「うん」
桜も、家康にならって商品を眺めてみる。一口に薬草と言っても色々あるようで、植物全体が乾燥させてあったり、根や花、実などの部分的なものだけ取り出してあるものも多い。もともと植物自体に詳しくない桜にとっては、何が何なのか皆目見当もつかない。
早々に飽きてしまって、手を繋いだままの家康の横顔をそっと伺う。真剣な眼差しに、心が騒ぐ。
耐えきれずに慌てて顔をそらすと、
「退屈なら…隣でも覗いてなよ」
桜がつまらなそうにしていると思ったのか、家康がそう言って手を離してくれる。
「じゃあ、そうするね」
言葉に乗じて隣の店へ避難する。小間物屋だ、ここなら桜が見ていて楽しいものもたくさんある。
薬草を選別している家康をもう一度だけこっそりと見て、一つ深呼吸。気持ちを落ち着かせてから、桜も買い物を楽しむことにした。