第43章 実力
音駒での仕事を終え、青城の方へと向かう。
こういう力仕事も普通の女の子には大変なんだろうな。
青城の部屋には誰も居らず、荷物だけが乱雑に置かれていた。
それらを邪魔にならないように隅に片づけ、布団を敷いていく。
音駒はちゃんと片づけてあったな。
「ふぁ…眠い」
軽く伸びをしながら廊下を歩く。
「眠そうな顔」
笑いを含んだような低い声。
「蛍、どうしたの?」
「用がないと話しかけちゃいけない訳?」
「別に?」
自然と笑みが零れる。
「何笑ってんの」
「なんでもないよ」
「なんでもないって顔してないんだけど」
「気にしなくて良いから」
「いや、気になるから」
「蛍って相変わらず乱されるの早いよね」
「…」
まぁ、私も蛍と居るとそうだけど。
「蛍?」
なんか黙り込んじゃった。
怒らせた?
「ごめん、なんか怒らせ…っ」
言葉の途中で、唇に温もりのある何かが触れた。
目の前に居た蛍の姿がない。
あるのはこの温もりも、近くに感じる蛍の匂い。