第37章 誘惑
「じゃあ先入るね」
「どーぞ」
何気に蛍も頑固だよな。
着替えを持って脱衣所に向かい、お風呂に入る。
熱いシャワーを浴びながら考える。
蛍とは恋人同士ってことで良いんだよね、と。
つい最近断られたばかりだから、まだなんとなく実感が湧かない。
誰かと付き合うのなんて中学以来、2度目の体験だ。
お世辞にも経験豊富とは言えない。
加えてこの不器用で可愛気のない性格。
飽きられなければそれで良い。
高望みはしない。
「空いたよ」
音楽を聞いていた蛍に声をかける。
「突き当たりを右に曲がったとこ。
多分見れば分かると思う」
蛍は察しが良いしね。
「じゃあ入って来る」
「うん」
私も自分の仕事をやらないとね。
烏養さんに今年の試合記録や部誌を渡されたのだ。
更なる能力分析、無意識の内にやっている選手の癖、そしてそれに見合う練習内容を見極めろ、とのことだ。
あわよくば相手の分析も、と考えているのがよく分かる。