第43章 Around-宮殿巡り-
「一護クンがここでやることはおしまい。次のところへ行く手続きをするっス」
「次?」
「待てよ!」
「!」
「俺も行くぜ」
「恋次!
何言ってんだオマエまだ───……」
ドガッ!
包帯だらけの恋次の腹を拳で突くが…
「!」
「…どうだ?俺はフッ飛ばされなかったぜ」
琉生の拳を堪えた恋次だが、その手はガチガチと震えている。
その我慢強さに琉生は大きく溜息を吐く。
「…仕方ないスね。今の突きに堪えられればもう大丈夫か。阿散井クン、合格っス」
「お…おう!」
そうして打ち上げられた二人は次の宮殿に向けて飛んで行った。
「…はぁああ…」
仕事を終えた琉生はタオルを頭に乗せて、温泉に浸かる。獅子落としが音を立てるのを聞きながら、琉生は静かに目を閉じた。
『本当に父親そっくりね…』
『髪の色も、目の色も、顔さえも…。まるで…あの人がいるかのようだわ…』
『あぁ琉生…愛しているわ。あなたに褒めてほしくて、お化粧を頑張ったのよ。どう?綺麗でしょう?』
『あなたはあたしだけを見ていればいいの。他の女なんかに愛想を振りまかないで!』
『いつかあの人が帰って来てくれる…。そしたら…言ってあげなくちゃ。“おかえり”って』
『あぁ…どうしてこんなにも愛おしいのかしら。ねえ?琉生?あなたはあたしだけを愛してくれるわよね…?』
『あなたはあの人だもの』
『絶対に誰にも渡さない』
『好きよ…愛してるわ』
目を開けた琉生は顔を歪めた。
「…あー胸くそ悪ィ…。忘れたいのに…思い出しちまったっつーの」
顔を上に向けたことで頭からタオルが落ちる。
「あの女が壊れたのはクソ親父のせい…。だからアイツの代わりにオレを愛した。あの女の愛が…怖かった」
ぱしゃっと湯が音を立てる。
「…本当の愛って、何なんスかね…」
誰に問いかけるわけでもなく、琉生は独りごちる。そして一護の顔が浮かぶ。
「話には聞いてたけど…あれが黒崎一護。なるほどね…梨央チャンと霊王が惚れ込むのもわかるっスわ」
琉生はふと笑みを溢した───。
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