第4章 書類配りII
【五番隊舎】
「失礼します」
無視されるのが分かっている為、勝手に扉を開けて中に入る。隊士達が流歌の存在に気付いた瞬間、ピリッと空気が変わるのを感じた。
そして仲間と楽しく喋っていた一人の少女が流歌の元まで歩み寄って来ると、憤怒の表情で睨みつける。
「そんなに怖い顔をしてどうしました?せっかくの可愛い顔が台無しですよ───雛森副隊長」
パシンッ
乾いた音が響いた。
「……………」
片手を振り上げた雛森が、流歌の頬に平手打ちをしたのだ。
「(殴られるよりはマシだ。)」
無言で雛森を見れば、身体を怒りでフルフルと震わせ、涙を浮かべた顔で流歌を睨みつけている。
「いきなり何をするんですか」
「桃香ちゃんに何したの!!」
「別に何もしてませんよ」
「嘘言わないで!!殺そうとしたくせに!!」
「(どいつもこいつも…)」
同じ質問の繰り返しに流石に苛立ちが募る。思わず舌打ちしそうなのを堪える代わりに、呆れて溜息を吐いた。
「桃香ちゃんがどれほど怖かったか…痛かったか…」
桃香の苦しみを理解するように拳を握り締め、ギュッと目を瞑る雛森。
「人を傷付けておいてどうして平気でいられるの!?罪悪感はないの!?」
「まさか彼女が本気で傷付いてると思ってるんですか?」
「当たり前でしょ!!」
「貴女も僕を疑っているんですね」
「貴方はあたしの友達に最低な事をした!!早く桃香ちゃんに謝って!!」
「冴島桃香という女は、極悪な傀儡師です。自分に好意を寄せる相手を利用し、見えない糸で自分の意のままに操る。そして役に立たない人形は自ら糸を切って捨てる。そんな女ですよ、貴女達が信じている冴島桃香は」
「そんな酷い子じゃない!!」
「自分がモテたい為に周囲の気を引こうとしてるんです。まるで媚び諂う売女のようだ。手当たり次第に男を漁っては偽りのある甘い言葉で傍に置いておく。彼女は悲劇のお姫様を演じている悪女なんですよ」
「っ!!」
あまりにも酷い言葉に怒りでカッとなった雛森は憎たらしそうに顔を歪める。
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