第35章 Apricus-優しい恋-
青空が澄み渡る昼下がり────……
「…やっと解放された」
げんなりとした表情を浮かべて外を歩いていた。
「蒼生くんめ…ほんと厳しいんだから」
鋭い眼を向ける鬼の監視の下、苦手な書類を片付け終えた頃には既に梨央の精神は限界を迎えていた。
「そりゃサボってた私が悪いけどさ…」
中には何ヶ月前に届いた書類が紛れ込んでいて、それを見つけた時の蒼生の表情はまるで般若の様だったと梨央は恐れながら語る。
「仕方ない…再発行してもらうか」
青筋を浮かべて怒号を飛ばす蒼生の説教を散々聞かされた梨央は大きく溜息を吐いた。
「我が兄ながら性格まで似なくて良かったよ」
“いやいや…貴女も相当な短気ですよ?”
そんなツッコミがどこからか飛んで来そうだ。
「あー…甘いものが食べたい」
グッと背筋を伸ばす。
「───梨央?」
振り返らずとも分かる声に梨央は自然と笑みが溢れる。
「日番谷隊長!」
あれほど疲労感に襲われていたのに日番谷に会った瞬間、それら全てが吹っ飛び、代わりに幸福感に満たされた。
「今から昼か?」
「はい」
「なら一緒に食わねえか?」
「喜んで」
嬉しそうに返事をすると日番谷は微笑を浮かべる。
肩を並べて歩く二人の身長差は明白である。
だが、そんなことは今の二人にとってはどうでもいいのだ。
恋人同士になったという、その幸せだけで、身長差など気にも留めない。
「何を食べましょうか?」
「ショートケーキが美味いって評判の店があるみたいだぞ」
「いいですね!
実は甘いものが食べたいと思っていたんです!」
「松本が教えてくれてな、お前は甘党だから絶対に甘味処に連れて行けと強く念を押された。だからその店に行こうぜ」
「わあ、楽しみです!」
両手を合わせて喜ぶ。
瀞霊廷に着くと大勢の人々が賑わいを見せている。仲睦まじい親子が手を繋いでいたり、子供達の笑い声が聞こえ、それを直に見てとても懐かしく感じた。
「昔は…もう少し活気があったんですよ。
今は…その面影は薄れていますが…」
「平子達がいた頃か」
「はい」
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