第2章 悪夢のはじまり
「ごめん…不出来な妹で」
「その言い方やめろ。マジで怒るぞ」
「…キミ達が今の状態になったのは私が原因だ。あの時は“そう判断するしかなかった”。でもその代償として…私はキミ達の『帰る場所』を守れなかった」
後悔と悔しさで顔を歪める。
「それでも」
真っ直ぐに蒼生を見る。
「冴島桃香のやったことは見逃せない」
「……………」
「過ちを冒しておいて何も背負わないなんて…そんなのは許されない。罪を犯した者はその代償を払うべきだ」
悲しそうな表情を浮かべた後、冷たい瞳で梨央は言った。
「だから罪を犯した彼女には、それ相応の代償を払ってもらおう」
「……っとに…世話の焼ける我儘な妹だな」
盛大に溜息を吐いた蒼生は本を閉じた。
「好きにしろ」
「いいの…?」
「どうせ何を言っても利かねぇだろ。仕方ないから今回は俺が折れる」
「蒼生くん!」
パッと梨央の表情が明るくなる。
「これでもお前の兄貴だからな」
「やっぱり優しいね」
「別に優しくはねぇだろ」
「でも最後は必ず私の頼み聞いてくれる」
「……………」
「ふふ、ありがと」
「だから礼なんていいっつーの」
「キミはいつも私の味方だよね。どんな時も傍にいて私を守ってくれる」
「お前を守る。それが“あの人”との約束だからな」
蒼生はソファーから立ち上がり、梨央を見下ろす。
「だからお前も約束しろ」
「約束?」
「俺の傍から離れるな」
「!」
「お前が泣いた時、涙を拭ってやれねぇだろ。だから…俺の隣にいろ」
「蒼生くん…それ、恋人に言う台詞。思わずときめいちゃった」
「阿呆。茶化すな」
「嘘嘘。かっこいい」
「っとにお前は…」
「頑張る。だから見守っててね」
嬉しそうに笑んだその笑顔に、蒼生の表情も柔らかくなる。
「ジジイにどやされる前に戻れよ」
「うん」
部屋を出て行った蒼生を見送る。
「ほんと妹思いだなぁ」
ふふ、と笑みを溢す。
「負けないよ。だって私は…キミに似て強いんだから」
梨央は誇らしげに笑った。
next…