第2章 悪夢のはじまり
「神崎」
「はい?」
「人が刺されて危険な状態なんだ。今の自分の立場を理解しろ。お前はこの場にいる全員に疑われてる。それがどういう意味か分かるだろ?」
「(人を犯人扱いしやがって…)」
「例えお前が冴島を刺してなくてもだ。今の発言は不謹慎だと思うぜ」
「(あぁ、本当に目障りだ。)」
彼の瞳の色は
霙の瞳の色と違うのに
こんなにも煩わしいなんて…。
「とりあえず冴島は四番隊に連れて行け。卯ノ花には俺から連絡を入れておく。それとあまり身体を揺らすな。…神崎は俺と一緒に来い」
無言で頷いた恋次は流歌を鋭く睨みつける。流歌も何の感情も宿さぬ瞳で恋次を睨み返す。
「絶対に許さねぇ」
血まみれの桃香を抱き上げ、恋次は他の隊士達と共に四番隊に向かって行った。
カランッ
桃香の血が付いたナイフを捨てる。
「…チッ」
小さく舌打ちをした。
「(油断した。私が彼女の仕掛けた罠にまんまとハマるなんて…)」
そして十番隊舎に来た流歌は日番谷から冷えたタオルを貰い、頬を冷やす。
「本当に冴島を刺してないのか?」
「刺してません」
「何故そう言い切れる?」
「僕に冴島四席を刺す動機がないからです」
「でも証明できないんだろ?」
「できません」
「…反省はしてるか」
「反省?どうして僕が?」
「冴島をあんな目に遭わせちまった罪悪感はないのか」
「罪悪感?そんなのあるわけないじゃないですか。やだなあ隊長。まさか僕が本気で冴島四席を刺したと思ってるんですか?」
「あの場にいたのはお前と冴島だけだ。他の誰もいない状況の中でお前以外の誰かが冴島を刺したとは考え難い。それにお前は冴島の血が付いたナイフを持ってた」
「確かにあの場には僕と彼女だけです。他の方はいませんでした。そして僕は彼女の血が付いたナイフを握っていた。ですが何度も言うように僕は彼女を刺したくて刺したわけじゃありません」
少し苛立ちを含んだキツイ口調になる。
執務室には冷たい空気と長い沈黙が流れた。
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