第1章 仕組まれた罠
その夜、仕事を終えた流歌は桃香の強引な誘いによってパーティーに参加していた。
「(雅に叱られてしまった…)」
掌を見ると爪痕が残っており、今はちゃんと消毒されているがまだほんの僅かに血が皮膚に付着していた。
「(キレると掌を強く握る癖、直さないとな…このままじゃまた雅の雷が落ちる。)」
小言を言いながら手当をしてくれた雅に感謝をしつつ、彼の恐ろしさを改めて感じた。
「今頃は炭酸水でも飲みながらゆっくりしてたのに…」
それが台無しになった
これも全てあの女のせいだ
勝手に約束を取り付けた挙句に
人の許可なしに参加を決めやがって
「(帰りたい…。)」
「あ、あの…!」
「!」
「一曲、踊って頂けませんか?」
「あー…」
ちらりと周りを見渡してみると、丁度ダンスタイムに入ったのだろう。男が女を誘い、手を取り合ってステップを踏んでいる。
「申し訳ありません。少し気分が優れなくて…」
「そうなんですか…」
「本当にすみません」
上辺だけの謝罪をすれば、女性は残念そうに立ち去って行った。
「ホント煩わしい」
煌びやかなパーティー自体、あまり好きではない流歌は飾られただけの人々を見て蔑みの視線を送る。
「(こんなパーティー壊れてしまえ。)」
本気でそう思い、用意された料理にも手を付けず、嫌気が差して隊舎の外に出た。
「夜風に当たると気持ちいいな…」
空は紺碧色に染まっている。小さく輝いた星達は互いの存在を知らせるかのようにキラキラと輝きを放っている。
「(蒼生くん…何してるかなぁ…)」
「流歌君♪」
「…………」
空を見上げながら物思いに耽っていると、それを邪魔するかのように彼女が現れた。
「冴島四席…」
「こんなところにいたのー?急にいなくなるから帰っちゃったのかと思って桃香心配したんだからぁ〜」
「(このわざとらしい声、勘に障る…)」
「桃香をエスコートしてくれる約束忘れたのぉ〜?」
「(断じてそんな約束はしていない。)」
勝手に約束を取り付けたのはそっちだろ
つーか誰がエスコートするか
このぶりっ子女が。
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