第8章 カタウデの少女
「今日お伺いしたのは華月さんが護廷を脱退された本当の理由を教えて頂きに来ました」
「……………」
「貴女は冴島桃香の取り巻き達による執拗な嫌がらせが原因で精神的にも身体的にも限界でやむを得ず脱退の選択をした。間違いありませんか?」
「…少し訂正してもいいかしら」
「どうぞ」
「確かに冴島さんの取り巻き達による嫌がらせはあったわ。毎日罵倒の数々は凄かったわね」
その頃の事を思い出したのか、詩愛は綺麗な顔をグッとしかめ、息を吐き捨てる。
「でもね、その程度の嫌がらせで心が折れるような弱さは持ち合わせてないのよ」
真剣な表情でハッキリと告げた。
「詩愛たん、強いもんね」
「卯ノ花隊長がいたからよ」
霙に向けて笑みを浮かべる。
「あたしはあの人に憧れて死神になろうと思ったの。あの人の治療技術には目を見張ったわ。だって…まるで魔法みたいなんだもの」
「わかる!霙もね、れっちゃんの治療を間近で見て魔法みたいだなって思った!」
「そうね。魔法みたいに怪我人を治してしまうわ。あたしは…あの人の役に立つことが何よりの生き甲斐だった」
優しい声色に悲しみが混じり、天井を仰いだ詩愛はポツリポツリと静かに語り始める。
「あの人に必要とされたくて必死に努力した。どんなに辛い仕事だって頑張れたわ。高熱が出た時もあの人を心配させたくなくて休まず働いた」
「(まるで死神の鏡だな。)」
「虚退治の時に怪我をして入院だって言われても医師の制止を振り切ってでも働いた。少しでも卯ノ花隊長の力になりたかったから」
「見上げた根性だな」
「しーっ」
感心する蒼生に雅は水を差さないように人差し指を唇に当てる。
「でも…流石に“アレ”は予想外だったわね」
「予想外?」
「“アレ”…?」
天井に向けていた顔を戻し、全員が疑問を浮かべる中で詩愛は言った。
「ある日、四十六室から手紙が届いたの」
「!」
「四十六室から?」
「(まさか…)」
四十六室からの手紙、詩愛の体調不良。この二つの繋がりから四十六室が詩愛に宛てた手紙の内容が予想出来た。
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