第1章 春。
結婚はしていないので夫婦ではないが、生活を共にしているので近いものはあるかもしれない。
同じ好きを共有出来て嬉しいに決まっている。
「あぁ、綺麗だ。とても」
一さんの言葉にまた胸が高鳴った。
綺麗な風景に言ったのであって、決して私に言ったのではない。
分かってはいても、まるで私に向かって言われたような錯覚に陥ってしまう。
顔が熱い。
「はい、綺麗ですね。とても」
すぐそこにある一さんの手に自分の手を重ねて握る事で羞恥を凌いだ。
目を伏せる私の頭上でくすりと小さく笑う声がした。
凌いだはずの熱が上昇した気がして、頭を預けていた彼の肩口に顔を埋めた。
一人で眺めても美しいと感じていた景色を、愛しい人と二人で眺めるとより美しいのだと知った今朝の気分は、とても澄んでいて心地良い。
早起きは三文の得といった諺を体験して、なんだか嬉しくなった。