第1章 春。
桜の満開も近い日差し柔らかな春。
隣で眠る一さんを起こさないように、そっと布団を抜け出した。
辺りはまだ暗い。
日が登りきらないうちはまだ残る少しの寒さに手を擦り合わせた。
自身の手を少しでも温めようと吐き出した息がほのかに白い。
そこまで寒さに耐性のない体に羽織ってきた上着をかけ直して、縁側に座って夜明けを待つ。
太陽が顔を覗かせるまで、きっともう少し。
「そこで何をしている」
突然背中にかかった声にびくっと肩を揺らした。
細心の注意を払って隣を抜けてきたというのに、どうやら起こしてしまったようだ。