第5章 蒔かぬ種は生えぬ
その後も幾つかロッカーの中のものを取り出して、彼女の準備は終わったらしく、ベンチに座って弾倉を数えていた俺の元へと歩いてきた。
『これ、借りるから』
そう言ってリュックを広げてを見せてくる。
中にはナイフが数種類と双眼鏡、ワイヤーの束が入っていた。
普段戦闘に行く俺たちからすれば明らかに少ない武器の量だ。
「…それだけで大丈夫か?」
『うん、大丈夫。
いっぱい持って行っても殺すのは一人だから』
「なるほど、そうだが…。
せめて銃ぐらい持って行ったらどうだ?」
彼女は首を横に振る。
『いいよ、普段使わないし。
上手くグリップできないの』
そう言って近くにあったリボルバーを握る。
確かに彼女の小さな手では文字通り手に余るようだ。
「まあ、ムーメが使い慣れてる物のほうがいいよな」
彼女はうん、と小さく頷く。
リュックを閉め、両腕を通し背負う。
軽くジャンプしてみたり上半身を捻ってみたりして重さを確かめているようだ。
『…カラ松は、』
作業が終わったのか、こちらに背を向けたまま話し出す。
『捕まってる二人が、生きてると思う?』
振り向いた彼女は温度のない瞳をしていた。
憐れみも悪意も、配慮もない真っ直ぐな質問と眼差しだ。
その質問をされたら、自分はもっと怒ると思っていた。
きっと殴りかかるかと思っていたが、実際そうはならなかった。
ただ彼女から困った顔で『そんな顔しないで』と言われて、酷い顔をしているのだけはわかった。
『私には、判断できる材料が少ないから。
考えたくないのは分かるけど、あなたたちの口から聞きたい』
ムーメは目を逸らさずに言う。
これは彼女なりの優しさなのかもしれない。
「…生きてるさ。
自分で言うのはなんだが、俺たちはそれぞれ戦闘技能に関しては自信がある、だから」
『人質以外に利用価値があるってこと?』
こちらも目を逸らさず頷く。
お互い見つめあったまま、数秒たったころ、彼女は下を向いて長いため息を吐いた。
『可能性は低いと思うけど』
「でも、あいつらは死んだりしない。
俺は信じてるからな」
俺は笑顔で言い切る。
死なない。
他の兄弟を、置き去りにして死ねない。
俺がそう思うなら、あの二人だって同じはずなのだ。