第5章 蒔かぬ種は生えぬ
というか、
「呼び捨てなんだな」
ムーメに背を向け、ロッカーと向き合ったまま苦笑する。
どう見ても年下、しかも今や子供にしか見えない少女に呼び捨てにされるのは変な感じがする。
『嫌だった?だってカラ松も呼び捨てで呼んでたから…。
それにほら、ビジネスパートナーってやつでしょ?』
彼女は呼び捨てにした理由を淡々と説明しているだけなのだが、今は呼び捨てにしてしまったことに対して取り繕っているようにも見える。
「レディの言うことに従うのが紳士の務めだからな。
それに、他の兄弟も呼んでやったら喜ぶさ」
そっか、とムーメは返す。
そんな話をしながら五つ目のロッカーを開けると、お目当のものが見つかった。
「ほら、ナイフあったぞ」
ムーメのほうを向き、手招きすると素直に歩いてくる。
その表情はどことなく嬉しそうで、おもちゃを開ける時のワクワクした子供のように見える。
「…どうだ?」
ムーメが探しやすいようにロッカーから一歩下がる。
『うん、使えそう』
「それはよかった。
俺も少し準備するから、何かあったら呼んでくれ」
うん、とまた素っ気無く返されるが、もう気にしなかった。
ムーメが覗いているロッカーとは真後ろのロッカーの鍵を開け、中の物を取り出す。
アサルトライフルやリボルバーをガチャガチャと床に並べていく。
少し整理しないとチョロ松が帰ってきた時怒られそうだな、と思いながらベンチに腰掛け、銃のメンテナンスを始める。
『ねえ、これなんだろう』
ムーメの声に振り向くと、その手には見覚えのある小ぶりなナイフが握られていた。
そのナイフを掲げて見たり、手首を回して角度を変えて見たりしている。
『ボタンがあるんだけど、スペツナズナイフ(弾道ナイフ)じゃなさそうだし…』
「ああ、それは…」
ナイフについて説明すると、彼女は熱心に聞いていた。
あまり物事に興味がないのかと思ったがそうでもないらしい。
これも借りよう、と言って背負っていたリュックを下ろしてその中に放り込んだ。