第5章 蒔かぬ種は生えぬ
コンコン、と扉が軽くノックされた音に全員が振り返る。
おそ松が、どーぞ、と返すとムーメが扉を小さく開けて入ってきた。
その姿に兄弟は感心なのかよくわからない声を上げた。
「…これはあれだね」
「…あれっすね」
「ああ…あれだな」
「…ショタだわ完全に」
カジュアルシャツにチェックのハーフパンツ。
足元は彼女の履いていたローファーにハイソックス。
首元にはリボンタイ、ハーフパンツにはサスペンダーが取り付けられている。
長かった髪はどうまとめたのかわからないが、今はショートヘアーにしか見えず、キャスケットを深めにかぶっている。
『あ、あー、うんうん。
これでどうかな、男の子に見える?』
コホン、と小さく咳払いをし声を上げ下げすると、高めの少女らしいものから、声変わり前の少年に聞こえるようになった。
「すげー!ムーメちゃん男の子になっちゃった!」
その言葉に彼女は少し照れたような笑顔で応える。
見た目と声で判断するなら小学生くらいの男子だろう。
くりくりとした眼と笑顔は無邪気さを感じる。
「ヤバいかわいいよー!
ねぇ、こっちのリュックも似合うんじゃないかな?」
さっきまでの心配どこへやら、トド松も興奮した様子で小さなリュックをムーメに押し付ける。
「あ、いいかも。これも借りる」
押し付けられた、うさぎの耳を模した飾りのついたリュックを背負うとその場でくるりと回ってみせる。
その表情は少し嬉しそうにも見える。
しかし、すぐにハッとなりいつもの無表情に戻る。
『それよりさっさとしないとだった。
服ついでに武器も少し貸してもらえないかな』
「あー、今何も持ってないんだっけ?
いいよ。カラ松案内してやってー」
おそ松は横目でこちらを見ながら言う。
ガールと二人きりになってしまうじゃないか、と少し戸惑ったが、大人しく従う。
「ああ、俺が迷えるガールの為の道標となろう」
『…どうも』
ムーメは訝しげな、少し困った顔をする。
どうやら俺は嫌われているらしい。
悲しいがまあ、仕方のない事かもしれない。