第3章 魚心あれば水心
そんなことを考えながら談笑をしていると、部屋の扉が叩かれた。
兄さんだ、と思い返事をしドアノブを捻ると、勢いよく扉が開かれ、僕はその扉に顔を打ち付けた。
痛みで涙目になりしゃがみこんでいると、二人の兄が買ってきたものを並べ出した。
ふと、少女を見ると表情が少し強張っている。
目線の先にはおそ松がいた。
ただそれが、僕たちと同じ顔がまた増えたことに対する戸惑いなのか、殺し屋のターゲットが突然目の前に現れた驚きなのか、判断できない。
十四松も少女の緊張を読み取ったのか生理?と尋ねる。
女性にするにはリスクの高いボケだが、それによって少女の目線は十四松に移り、二人は和やかな雰囲気で自己紹介を始めた。
僕はそれに安堵しつつ眺めていると、おそ松が拗ねたように少女に話しかけた。
そのままソファーに座ると握手を求めながら名前を名乗る。
『さっき街でぶつかった…』
とハッとした表情で少女は呟く。
おそ松兄さんぶっ飛ばしていくなぁと僕と十四松はハラハラしながら様子をうかがう。
おそ松は続けて少女をここに連れてきた経緯を説明した。
少女は何かを考えているようだったが、おそ松が右手を差し出すと、素直に握手に応じ、自己紹介とお礼を述べていた。
とりあえず一触即発といったことにはならなそうだ。
その後は兄さん達の買ってきた大量の食料を食べ、お茶して、普通に歓談して、僕たち兄弟は部屋を後にした。
「ねぇ、どう思う?」
自室に戻る道すがらスマホをいじりつつ二人に尋ねる。
僕には結局急によくわからないところに連れてこられて緊張している女の子にしか見えなかったのだ。
「どうって…あの感じじゃわかんねーな」
おそ松が頭を掻きながら言う。
その表情には少なからず苛立ちも感じられる。
この子がハズレなら僕たちは振り出しに戻ってしまう。
「んーー、俺もわっかんねー!
でもおそ松兄さんのこと怖がってたね!」
十四松があっけらかんと言う。
確かに、僕も同調する。
「トド松、カラ松に連絡は?」
「したよー。
ついでにさっきあの子が言ってた住所も送っといた」
「じゃあとりあえず明日だな」
おそ松は伸びをしつつ自室に戻っていった。
十四松も大きく手を振り、おやすみなさい!と挨拶をして部屋に帰っていく。
僕も二人を見送って自室に戻った。
明日は何が起こるかな。