第2章 信ずるは良し、信じないのはもっと良い
律儀に数字を数え始めた十四松に驚きつつも、隣の屋根に飛び移る。
更に隣の屋根へ、と走っては飛んでを繰り返し距離を稼ぐ。
今日はヒールのある靴じゃなくて本当に良かった。
このまま直進距離で行けば大通りへすぐ着きそうだ。
「じゅーう!行くよー!」
後ろから一際大きく叫ぶ声に思わず振り向く。
屋根を二つ挟んだところから数え終わったらしい鬼が走り始めていた。
十四松は少し前屈みに、肩にバットを乗せて走ってくる。
なるほど言うだけあって速い。
驚異的なスピードとジャンプ力でこちらに向かってくる。
慌てて進行方向に直り、走る。
このまま行くと大通りまでに捕まってしまうかもしれない。
走りつつ肩にかけたバッグの中を手探りする。
万が一中身を見られた時の為に、バッグには一目で分かるような武器は入れていない。
それでも女性が普段持ち歩いても違和感のない物に擬態させた道具は数個忍ばせていた。
カサッと言う微かな音と感触で目当ての物を探り、取り出す。
手の平にあるのは小さなカプセルが二錠分入った薬のシートだ。
シートには一般的な痛み止めの名前が入っているがもちろん中身は違う。
それを一錠取り出す。
あまり手の内を晒したくはないが、言ってる場合でもない。
後はタイミングだ、と後ろを走る十四松の足音を聞く。
バッグを探っていてスピードが出なかったせいか、いつのまにか屋根一つ分程の距離まで近づいていた。
この距離なら当たる。
そう確信して次の屋根に飛び移る。
片足で着地し、素早く身体ごと振り返りつつ右手のカプセルを十四松に向かって投げつけた。
私を追ってまさに跳んでいるところだ。
空中で、この距離ならば避けられないだろう。
十四松は顔面に向かって飛んでくる物体をバット縦に構えるようにして防ぐ。
それを見て私は目を閉じ、両手で覆う。
バットに当たったカプセルは小さな音と共に破裂し、閃光をあげた。
ただそれだけのものだ。
それでも集中している時に突然真っ白な光を目の前で発せられれば、数秒はまともに物を見られないだろう。
閉じていた目を開けると、光に怯んだのか空中でバランスを崩し、建物の隙間に落ちていく十四松が映った。