第2章 信ずるは良し、信じないのはもっと良い
翌朝早く、扉の開く音で私は目を覚ました。
扉の方を向いて寝ていたので、誰かが、部屋に入ってきたのはわかった。
しかし、誰なのか、がわからない。
窓のブラインド越しに入ってくる光から部屋の中は暗くはなかったが、私にはそれが誰なのか判断がつかなかった。
その人物は扉を閉め、こちらに向き直る。
スーツに青いシャツ、十四松がつけていたものと同じ金色のネックレス、頭にはサングラス。
昨日の三人かと思ったが違う。
眉が鋭いからか少し男らしさを感じる顔つきだ。
初対面でもわかるほど、機嫌が悪そうだったが、私が目を覚ましたことに気づくと、パッと表情をかえ、顔の前に手を持ってきて謎のポージングを始めた。
「やぁ、カラ松ガール…」
『あ…お邪魔してます…』
謎のポーズとカラ松ガールという言葉にどう反応していいか分からず、そこには触れずに返事をする。
彼は意に介してないのか頭に乗せていたサングラスをかけ、話を続ける。
「すまないな。俺という光が現れたせいで、眠り姫を現世に連れ戻してしまったようだ…。
あぁ、なんて罪深い男ギルトガイ…!
しかし姫よ、まだ夢の中で踊るというのなら俺は何も言わず、己が城に戻ろう。
現世の光と夢の中の安寧、さあ、どちらを選択するんだ?」
サングラスをかけたと思ったら、再び頭の上に乗せ、ポージングを変える。
見ているとこっちが発狂したくなるような、胸の締め付けと居たたまれなさを感じる。
何かを問いかけているようだが、返事をするにもそもそも何を言っているのか分からず、二人の間を沈黙が流れ始めた。
「…起こしてしまったようですいません。
まだ眠るのでしたらすぐに出て行きます」
彼は急に妙なポージングと言い回しを止め、普通の口調で沈黙を破ったが、その表情は悲しそうだった。
どうやらさっきの長々しい台詞を訳してくれたようだ。