第1章 0.00 プロローグ The others
「の最終試験、合格。」
10月某日。
冬の到来を感じさせる澄んだ美しい青空を眺むことができる晴天の日。
そんな天候には不釣り合いな黄色い雨合羽と長靴を履き、口には棒付きの飴をくわえながら器用にホッケースティックをくるくると回す少女は、どうやって登ったのか電柱の上に堂々と立ちそう発した。
雨合羽の少女はそのまま電柱の上から飛び降りる。
普通の人間ならばまず怪我をするであろう高さのそれから飛び降りた少女は、さも当然のように綺麗に地面に着地した。
その先には16歳ほどであろう、長い漆黒の髪を空と同じ青色のリボンで左サイドに高めに結び、これまた漆黒の瞳を持った少女が額にわずかに汗を浮かべ座り込んでいた。
「これで君も特環に入る訳なのだが…。君はボクの権限で東中央に所属してもらうことになった。…違言はないね?」
雨合羽の少女…もとい獅子堂戌子(シシドウイヌコ)はホッケースティックを背中に装着すると何かしらが書かれているであろう紙切れを座り込んでいる少女に渡し、愛車であるスクーターに跨がった。
「その紙に東中央の場所は書いてある。ボクはまだ旅を続けるからな。君1人で東中央まで行ってくれたまえ。」
座り込んでいる少女は焦ったように口をぱくぱくさせる。
言いたいこと聞きたいことが沢山あるが、だからこそ何一つとして発することができない。
そんな姿をみた戌子は、「大丈夫。支部長にはきちんと言ってあるし、それに東中央にはボクの昔の戦友もいるからな。心配することはない。」ただそれだけを言い残し、スクーターもろとも走り去ってしまった。
1人取り残された少女は暫く呆然としたあと、覚悟を決めたのか静かに立ち上がった。
戌子に渡された紙に書かれていたのはたった一語。
ーーーー“桜架市”
少女は小さな溜め息を落とし、期待と不安を胸に歩き出した。