第10章 事象の地平線を歩く猫(轟焦凍)
轟焦凍が"見えない何か"と話している間に、僕は静かに教室を後にした。あくびをしたさんと共に。
「本当に不思議な"個性"だね、僕は確かに轟くんのもとへ跳んだ君を見たはずなのに」
しかし瞬く間に彼女の姿は消え、消えたと思いきや教卓の上に澄ました顔で座ってた。
「キミがしょーとくんにデレデレしてる私を見たくないと思ったんでしょ?……ははーん。緑谷くん、実は私の事好きだったりしてー」
「そ、そ、そんなこと無いよ!!」
僕が女子に不慣れだってわかっててからかうの、ズルいと思う……。
「緑谷くん、ありがとう。君がいななったら私としょーとくんはずっとすれ違ったままだったかもしれない」
さんと轟くんがどんな感動的な再会を果たしたのか僕は知らない。僕が観測する彼女はいつだってお調子者のクラスメイトだから。
「緑谷くんはきっと良いヒーローになれる!じゃあねまた明日」
「うん、また明日」
手を振り返すと夕闇に紛れて見えなくなった彼女は、今も世界のどこかで救けを求める誰かに寄り添っているのかもしれない。
-end-