第6章 マイナス側に生まれて(心操人使)男主
ヒーロー科と普通科の校舎を繋ぐ渡り廊下。尻もちをついた少年の教科書と筆箱が心操人使の足元に飛んで来た。
「前見て歩けよクソモブが!」
「ご、ごめんなさ……うわああ爆豪勝己だあああっ!ヘドロヴィラン事件の爆豪だ!すっげぇ!本物だ!」
「殺すぞ」
「ひゃいっ!!」
威圧的なその男は、爆豪勝己。たしか入試の実技試験一位だった奴。
派手な個性だからって調子乗りやがって。
爆豪の不遜な態度に苛立った俺は教科書を拾うと、二人の間を遮るように立ち、それを差し出した。
「ホラよ」
背中越しに、チッと舌打ちが聞こえた。絡まれるとキレるのに無視されるのも嫌なのかよ。めんどくせー奴。
一方尻もちをついたソイツはポカンと呆けて俺を見上げる。
正確にはソイツの視線は頭に巻いた白い包帯で遮られていて、顔がコチラを向いているというだけだ。
気怠そうに踵を引き摺る、爆豪の独特の足音は遠ざかっていた。
「……授業、遅れるぞ」
拾った教科書の題字は美術。確か美術室は1階だったから急がないと間に合わないハズ。
「あ、あの……ありがとう、ございます」
包帯男は慌てて教科書を受け取るとペコっと頭を下げる。
「俺、D組の一樹ッス!」
上擦った声。
「…オマエ、なんで敬語なの?」
「あっそうか。救けてもらったから、つい…」
救けたって言うか、ホントは爆豪をやり込めたかっただけなんだけどな。
ヒーロー扱いされる事に慣れない俺は、変なくすぐったさを感じて。でも不思議と嫌な気はしなかった。
「俺はC組、心操」
「…しん、そう?」
「心を操るで、心操」
名は体を表すとはよく言ったものだ。
顔も知らない先祖が俺の為にわざわざあつらえたんじゃないかって思うような、個性を的確にを表す苗字。
「心操…すっげぇカッコいい苗字だな!なんか羨ましい!」
そんな忌まわしい苗字をこんな大袈裟に褒めそやす奴は今まで初めてで、素直に驚いた。
ああそうか。コイツは何にも知らねえんだった。
鳴り響く始業のチャイムに飛び跳ね、走り出す包帯。
振り返って「またな、心操!」なんて笑う。
コイツには個性の事、知られたくないな、なんて。
一瞬思って、すぐやめた。
-to be continued-