第17章 歌を忘れたカナリヤ
「もしもし、母ちゃん?」
『あら、智
どうしたの?』
「あのさ…
墓の場所、教えてくんねぇかな、」
『大野家のお墓?』
「違うっつの。それは知ってる。
じゃなくて…音さんの、」
『音さん、って…城咲くん…?
知ってたのね…智、』
「そりゃさ…分かるよ…」
『分かったわよ。ちょっと待ってね?
あぁ…あった。
場所は…』
俺は…10年以上ぶりに、音さんに会いに行った
音さんの眠るその場所は…とても綺麗な丘の上にあった
「お兄さん」
あの頃の呼び方で呼んでみる
「遅くなってごめんね、
お陰様で…忙しくやってんだ
歌も…約束通りずっと歌い続けてるよ。
もちろんこれからも…10年…20年後も歌い続けてくつもりだよ
まだまだ駆け出しだけどさ…頑張ってるよ?俺、」
線香の煙が真っ直ぐに伸びて行く
「菊とかさ、なんかお兄さんに似合わないかな、って…
かすみ草と青っぽい花ばっかだけど…
青ってさ、俺の嵐の中のメンバーカラーなんだ
そういえばお兄さんもよく青いカーディガン着てたよね
まさかそれも…偶然じゃないのかな、」
キン、と耳鳴りがして
あ。音さんが側にいるのかな、って
「あの頃、俺まだ小2でさ、ガキンチョだったけど…
好きだったんだよ、音さんのこと」
ねぇ、聞いてる…?
10年越しの俺の告白をさ
ふわり、と
温かな風が吹いた
“僕もだよ、智くん…”
風に乗って
お兄さんの綺麗な声が
ハッキリとこの耳に届いた
ありがとう、お兄さん
また一緒に歌おうか
初めて音さんと一緒に歌った“歌を忘れたカナリヤ”
を、墓前で歌った
お兄さんのあの綺麗な笑顔が…
青い空にふわりと浮かんで、消えた…
☆END☆