• テキストサイズ

誰も知らない。【気象系BL】

第17章 歌を忘れたカナリヤ







その人は、とても美しい声の持ち主だった





ー ガラガラッ ー


『お兄さん…!』

『やぁ。また来てくれたんだね
今日はお母さんにちゃんと言ってきたの?』


それまで読んでいたんであろう、雑誌を
テーブルに伏せて
その人は、とても綺麗に微笑った


『…う、うん。言ってきた!』

『ふふっ。嘘は感心しないなぁ?』

『…ゴメンナサイ。
お兄さんの歌、聞きたくて…』


あぁ、怒ってるよね…
帰りなさいって言われちゃうかな…?

上目遣いにそっとその顔を覗き込むと
青く透き通った顔のままのお兄さんの口角が
ほんの少し上がっているのが分かって、ホッとした


『…ちょっとだけだよ?
聞いたらまっすぐ家に帰ること。わかった?』

『うん、わかった…!』



お兄さんは、目を閉じてすうっと息を吸い込み
斜め45度に傾けられたベッドに身体を沈めたまま
骨ばった指先だけをテーブルに伸ばし
爪先でゆっくりとカウントを取った


…1、2、3、4、


『〜♪
歌を忘れたカナリヤは
うしろの山に捨てましょうか

いえいえ、それはかわいそう

歌を忘れたカナリヤは
背戸の小藪に埋けましょうか

いえいえ、それはなりませぬ

歌を忘れたカナリヤは
柳の鞭でぶちましょうか

いえいえ、それはかわいそう

歌を忘れたカナリヤは
象牙の船に銀のかい

月夜の海に浮かべれば、
忘れた歌を思い出す…』


この、今にも消え入りそうな儚い歌声を聴く度に
心を揺さぶられるような、何とも言えない気持ちになるんだ


『凄い…
凄いよ、お兄さん!』

『ふふ…ありがとうね?
君も…一緒に歌ってみるかい? 智くん』
/ 181ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp