第16章 ソメイヨシノ
あ、返信しなきゃ…
閉じていたスマホをもう一度開くと
緑のアイコンをタップして
智くんの名前のところを開く
『圧巻だね!
吉野山の千本桜、俺も見たかったな』
俺も
あなたと一緒に見たかった
あなたの目に映るもの全てに
嫉妬してしまいそうだよ…
智くんが東京に戻る日
俺は朝早くからロケ地へと向かっていた
家に帰る頃には
あなたはきっと夢の中だろう
ロケは順調に進んでいる…はずだった
途中、機材トラブルがあって
撮影は一旦中止
そんな事があって
全てを終えて東京の自宅に戻れた時には
てっぺんをとうに越えていた
「お疲れ様でした!
遅くなってしまって本当にすみませんでした!」
「しょうがないよ
じゃ、お疲れ様」
マネージャーに送ってもらって家の中に入ると
ヒンヤリとした空気が俺を包む
こんなの慣れっこな筈なのに
今日はなぜだか寂しかった
会いたい気持ちを飲み込んで
リビングに続くドアを開けると
テーブルの上に置かれた“あるもの”に気が付いた
これ、智くんが…?
メールでは何も言っていなかった
「こんなサプライズ、嬉しすぎるよ…」
栄養ドリンクの空きビンに飾られた
15cmほどの桜の枝と、置き手紙
“翔くんへ
お疲れ様。
20年前の約束、半分は果たせたかな?
智”