第16章 ソメイヨシノ
『桜ってなんでピンク色なのか知ってる?』
『さぁ…』
『お前“櫻井”のくせにそんなことも知らねーの?』
『や、意味わかんないし…』
『桜っつーのはなぁ
ホントは白い花なんだよ』
『…えっ?』
『むかーし昔はさ
人が亡くなると遺体を桜の木の下に埋めるのが習わしだったんだ
真っ白な花を咲かせる桜の木は
根から人間の血を吸って
そんでピンク色になったってわけ』
『嘘…』
『ホントだよ
桜の木の下を3メートル以上掘ってみ?
人間の骨がゴロゴロ出てくるから』
『やだ、やめてよ大野くん!
僕、怖い話苦手なんだから!』
怖がる俺を見て
智くんは悪びれる様子もなく笑った
『怖がりだなぁ、翔は』
細くて長い指がスッと伸びて
そっと髪に触れる
『…何?』
『これ』
掌には一枚の花びら
『『あっ…』』
花びらは風に乗って消えた
『そろそろレッスン戻るか
行くぞ?』
『待って!
待ってよ、大野くん…!』
ねぇ、智くん
知ってる?
あの後、智くんの話を信じた俺は
ビビって暫く桜の木に近寄れなかったんだからね