第13章 私と海と電話。
マナーモードにしたスマホを握りしめて
一人、砂浜に座り
海を見つめる
“お疲れ様
明日、夕方からでしょ?
終わったらこっち来ない?“
随分前に送ったLINE
そろそろ気付く頃かな
暫くすると
手にしていたスマホがブルッと震えた
画面のポップアップには
アイツの名前
”今どこにいるの?“
そーなるよね。
こっち、って言われても
わかるわけないもんね
”俺の海“
返事を返すと
直ぐに既読になった
”千葉居んの?”
“うん、そう”
俺は地元の海のことを
『俺の海』と言う
この場所には特別な思い入れがあるんだ
“今から行くよ”
今日もビーサンを履いてるだろうから
海に誘ってもきっと文句は言われないだろう
まぁ、それを見越しての、海への誘いなんだけど
潮風が頬を撫でる
波打ち際まで行くと
小枝を拾って砂浜に名前を書いた
“にの”
寄せては引いて行く小波が
その文字を消していく
「ふふっ」
思わず声に出して
小さく笑った
まるで俺の心の内を表しているかのようだよ