第28章 少女のいる世界
「はいっ、どこにも異常無し!お疲れ様ッス、蝶さん」
『…貴方にそう呼ばれるのはやっぱりなんだかしっくりこないの。何か隠してなぁい?……本当はれっきとしたお医者様じゃないんでしょう?』
「いやぁ、そこまで分かっちゃいます?…でも、ボクのことなんかよりも先に思い出すべきことがあるからねぇ、君には」
森さんにも言われた、そんなこと。
立原(呼び捨てにしろと言われた)にも、同じことを。
『思い出すも、何も…記憶なんて、どうやって?』
「一つは、君が勇気を振り絞って力を扱うこと…そしてもう一つは、自然の流れに身を任せてみること」
君の身体なら、放っておいてもすぐに記憶は戻っていく…今は後遺症が少し響いているだけで、しかしそれでも、徐々に身体には感覚が戻ってきているはずだ。
忘れたままでも勿論いいだろうけど、君は…思い出さなきゃ、いけないよ。
浦原喜助…どうにも懐かしさを感じるその人の言葉は、私をすんなりと納得させるものばかり。
なんてどこかで彼の言葉を噛み締めている時の事だった。
彼が、杖を目の前に上げてから、そこに何かを生み出した。
それは、襖。
円形の…光り輝く、眩い扉。
『…あ、れ……扉…?』
それが開けば、出てきたのは一人の男の人。
小柄で…そして綺麗な蒼い瞳の。
黒い帽子をかぶった、綺麗な人。
一瞬の出来事だった。
目も心も、その人に奪われてしまったのだ…こんな経験、したこと……?
「びっくりした…ッ!浦原さん、久しぶり…?なんだよな?俺、やっと目ぇ覚めたみた、い…で……」
その人がこちらを向いた途端に目が合って、ドクン、とまた心臓が脈打つ。
『…あ、なた……今、どこから?…寝てた…?』
片手で頭を抑えながら、ぼうっとするのを耐えて問う。
「…自己紹介からしようか。俺はポートマフィアの五代幹部の一人……中原中也ってんだ」
『!!中原、…って…』
優しい目をして、その人は微笑む。
その表情に胸がきゅう、と締め付けられて、何故だかまた泣きそうになった。
「ったく、首領も無茶なことさせる…つか蝶の目が覚めたんなら先に俺のこと起こせっての」
『ちよ…、』
そうだ、この声だ。
この人にそう呼ばれるのが嬉しくてたまらない。
「?お前は中原蝶、だろ?…それで、俺の世界で一番愛しい奥さんだ」
『!うん、中原ち……ッ!!、!!!?』