第29章 Happiness~櫻井×二宮~
かずにあの仕事をさせていた彼を、理解できないし、したいとも思わない。
その反面、実際あの仕事をしていなかったら、俺はかずには出会えなかった訳だし。
それは動かしようのない事実。
そう思うと、感謝しなきゃいけない、だけど...
今まで、何人の人がかずに溺れたんだろう?
「翔さん...?」
かずが俺の顔を不安そうに覗き込んだ。
黙って歩きながら、かずの肩を抱き寄せた。
......かずの肩に乗せた手に平に、精一杯の思いを乗せて...
かずに出会えた奇跡に感謝している...
それまで、かずが歩いてきた道を思うと、胸が苦しくなるけど。
今のかずが、かずになるために過ごして来た時間や、出会った人たちは、俺には分からない...
今更、どうすることもできない。
だから...
これからの人生、こうやって一緒に歩いていこうね。
歩幅を合わせて、雨も風もともに受けよう...
かずが居れば、それだけできっと、俺は強くなれるよ。
「翔...ありがとね...」
「お礼なんかいいんだよ...俺こそ、かず...俺に出会ってくれて、本当にありがとう...」
するとかずは立ち止まって、じっと俺の顔を見つめた。
俺も振り返り、黙ってかずの顔を見た。
.........
「翔さん...俺にとって、翔さんが最後の人だよ...俺の生涯をかけて...翔さん、あなただけを愛してる...」
「かず...」
午後の暖かな日差しが、街路樹の木々の隙間から俺たちふたりを優しく包んでいる...
行き交う人々の雑踏が、もう耳に届かない...
かずの鼓動だけが...
今この瞬間、俺のすべてだった。
『幸せの景色』って、もしかしたら、こんななのかもしれない。
どこにいるか?じゃなくて、誰といるか?
なんだろうな...
俺はこの日の、この景色を、忘れることはないだろう。
【 END 】