第29章 Happiness~櫻井×二宮~
「...かず...起きてる?」
「...ん...」
俯せたかずが、ゆっくり俺の方を見た。
涙で濡れたような瞳がキラキラしていた。
情事の後の気怠い甘さの中、俺は予てからかずに聞いてみたいと思っていたことを、思い切って尋ねた。
『どうして、この仕事をしているのか?』
正直。
どの位の客を取ってるのか、詳しことは知らなかったけど、かなりの金額が入っているはずだろうに...
私服のかずは、いつも同じようなTシャツにGパンで...
決して金回りがいいようには見えなかった。
貯金、しているのか...?
でも、かずの口から語られたのは、
衝撃の真実だった。
かずの親父さんは小さな町工場をしていて、景気のいい時は従業員を20人近く使っていた。
ところが、バブルの崩壊とともに、親会社が倒産。そのあおりを受けた彼の家も同じように締めることに...
ところが、親父さんが借金をしていて返済できないまま、家族を捨てて蒸発してしまった。
家族を守り、少しでも借金を返そうとした母親も、無理がたたり、かずが高校3年の時に病気なり、あっという間にこの世を去った。
後に残されたのは、利子しか返せていない借金と、まだ幼い弟と妹。
......不幸を絵に描いたような転落人生の責任が、かず一人の肩にかかって来た。
高校を中退し、アルバイトを始めたレストランで出会った人が、かずの運命を大きく変えた。
後で分かったことだけど、かずをスカウトしたその人、『山口さん』は、いろんな事業を展開する実業家で、
裏ではかなり危ないこともしているらしかった。
一目見て、かずの才能を見出したその人は、
かずが18歳になるのを待って、今の仕事をさせた。