第2章 グレイscene3
「ニノ」
朝、玄関から出て行く大野さんを見送っている時だった。
なんだか緊張した面持ちで、俺を呼んだ。
「なあに?大野さん」
そっと俺に両腕を伸ばして、抱き寄せてきた。
「…どうしたの…?体調、悪い…?」
「ううん…ニノ…」
「うん」
「今日、俺オールアップなんだ…」
「え…」
「だから…待っててくれる…?」
大野さん…それって…
「夕方には…帰るから…」
それだけ言うと、大野さんは玄関を出て行った。
「…そっか…もうそんな時期か…」
もう5月も半ばを超えていた。
今クールのドラマはちらほらクランクアップの時期だ。
大野さんは主演だけど、撮り終えるのは早かったようだ。
「そっか…」
もう大野さんは居ないのに、ひとりごちてパジャマの腕を擦る。
なんだか信じられなかった。
付き合って3年。
俺がでっちあげのスキャンダルに悩んでいた時、励ましてくれたのが大野さんだった。
スキャンダルなんて俺達の仕事にはついてまわるものだけど、あの時は一年間仕事を干されてだいぶ参っていた。
やけになって人に当たりまくってる俺を必死になだめて、家にまで来てくれた。
好きになったと気づくのに、時間はかからなかった。
だって俺達は、人生の半分以上の時間を一緒に過ごしているんだから。
お互いの考えていることなんて、すぐにわかってしまったんだ。