第13章 漆黒
「ありがとう…」
伸びてきた手が俺の頬をふんわりと包んだ。
「ごめん…」
ううん…
わかってるから、謝らないで…
「でも、今だけ…」
「…え?」
「今だけは…全部、俺をあげる」
「全部…?」
「うん。全部…」
まっすぐに俺を見つめる瞳に、翳りはなかった。
「今だけ…愛して…?」
本当に…?
本当にいいの…?
今だけでも、全部俺にくれるの…?
「愛しても…いいの?」
その言葉に、少し傷ついたような顔をした。
それから少し、笑った。
「愛して…」
そっと腕に包まれた。
「たくさん、愛して…」
ぎゅっと抱かれると、少し震えてるのが伝わってきた。
「うん…」
震える背中に腕を回すと、ぎゅっと抱きしめた。
互いの体温が伝わって、俺達はひとつになった。
今、この瞬間…
この時だけは…
「愛してる…」
「うん…」
「言って…?俺にも…」
「あい…してる…」
身体を離すと、見つめ合った。
その目には涙が溜まっていた。
「愛してるよ…」
「うん…愛してる…」
そっとキスすると、少し笑った。
もっと…その笑顔が見たい。
「今だけ、恋人…ね?」
「え…」
「恋人」
「こいびと…」