第12章 ピスタチオ fromショコラ
「お願いしますっ…先生っ…」
「いやあ…でもねえ…二宮さん…」
和服を着た先生は懐手をして俺を見てる。
ここは行長先生のお宅。
客間じゃなくて、書斎に通された俺はソファに正座して頭を下げている。
先生は向かいにあるデスクの前に置いてある、社長みたいな椅子に座って困りきってる。
デスクの横にはコートハンガーが置いてあって、この前先生が着ていた黒のロングコートが掛かっている。
ちらちらと先生はロングコートの方へ視線を泳がす。
俺の座るソファの前にはテーブルが置いてあって、そこにはコーヒーカップとソーサーが一客。
湯気も遠に消えて、冷めきってる。
「このまんまだと俺、気が狂いそうですっ…」
「お気持ちはお察ししますが…」
忙しい先生のスケジュールをなんとか押さえて、今日は俺一人でここを訪れている。
翔ちゃんも相葉さんも居ない。
「今現在、二宮さんにはなんの霊も憑いていないんです」
「それは、わかってます!だけど…あの犬は…」
「…う~ん…味をしめてしまったんでしょうなあ…黒は…」
そう…
俺、あれから時々、犬に取り憑かれてる。
取り憑かれてるだけならまだいい。
まだ我慢できる。
取り憑かれるときって、決まって5人で仕事の時で。
そして、決まって大野さんに飛びついてしまうのだ。