第11章 グレイscene4
ブースの扉を何とか閉めて、壁に押し付けられる身体を離そうとする。
けど、びくともしなくて…
「さとっ…お願いっ…」
その声は智の唇に飲み込まれた。
口内を執拗に貪る舌。
一気に流されそうになる。
けど…後一回、公演が残ってる…!
「さとっ…」
胸板を押して軽く睨むと、にっこり笑う。
だめだ…流される…
「なんっで…」
「え?」
「なんであの子とハイタッチしたの…?」
「え?なんのこと…?」
「いくら近いからって…ファンの子とハイタッチなんて…」
「いつの話だよ」
「あの子…浮気した子に似てるね」
ぎくりと智の動きが止まった。
「へえ…やっぱり好みだったんだ…」
「ち、違うって…覚えてないもん」
智の暴走を止めようと思って言った言葉だったけど、俺の中に暗い嫉妬の炎を燃え上がらせた。
「マイク向けて歌わせた子も…似てたね…?」
「えっ…嘘だろ…」
「嘘じゃないよ…やっぱり智は女のほうがいいんだね」
「違うって…!」
「じゃあなんで…いくら近いからっていつもと違うことしたの!?ファンの子の顔がよく見えるから…好みの子が居たからだよね!?」
「違うって言ってるだろ!?」
必死に取り繕うのを無視してカランを捻った。
熱いお湯が俺たちの間に降り注いだ。