第10章 だいだい
「和也…泣くなよ…」
「うん…でも…うええええ~…」
「ああ…鼻水…」
ティッシュを取って鼻の下を拭ってくれる。
「ほい。かめ」
ぶびーっと思い切りかむと、鼻の奥がつーんとした。
「ぶふ…いっぱい出たな…」
「もう…いいじゃんそんなの…」
翔の手からティッシュを取り上げてぽいした。
振り返ったら翔がすごく真剣な顔して立ってた。
俺の頬を両手で包むと、顔を少し上げて、おでこをこつんとくっつけた。
「和也…好きだよ…」
「翔…」
「やっと手に入れたんだ…もう離さないからな…」
「うん…俺も離さない…」
「ずっと…一緒な」
「うん…一緒」
「約束」
そう言って小指を出した。
その指に小指を絡めて、ゆびきりした。
「よし…泊まりの準備しろよ」
そう言ってぽんぽんと俺の頭を撫でる。
気がついたらもう夕方で…
だいだい色の太陽が部屋を染めていた。
きれいなだいだいに染まる翔はとっても綺麗で。
思わず手を伸ばしてだいだい色の頬を包んだ。
「どうした…?」
「翔…」
俺達の最初の思い出は、だいだい色…
きれいなきれいな色…
「きれい…」
「おまえの方が…きれいだ…」
そっと重なる唇。
閉じたまぶたの裏には、きれいなだいだい色。
「もうちょっと…このまま…」
「ん…?」
「日が暮れるまで…」
「いいよ…」
ソファに座って、いつまでもだいだいに染まる街を眺めた。
手を繋いで、こつんと頭をくっつけて…
幸せだよ…
いつまでも、この景色を忘れない。
そして…
いつまでも、翔を愛していく。
「…和也、寝たの…?」
さらりと前髪をかきあげられる。
額にちゅっと唇が触れると、その体温が離れていく。
とっさに腕を掴んでソファに押し倒した。
「うわっ…」
ぎゅっと鼻を掴んで、ぶちゅーっとキスをした。
「どこいくのっ!だーりんっ離さないからねっ」
【END】