第2章 グレイscene3
「本番はいります、ヨーイっ…」
演出さんの声が響く。
スーツ姿の智はキリッと背筋を伸ばして、スタジオで立ってる。
隣に立つ小池さんよりも背は低いけど、その流麗な眼差しは俺を捉えて離さなかった。
「…はいっ…オッケーです!」
現場に音が戻ってくる。
ガヤガヤとスタッフさんが動く中、ぽつんと時がそこだけ止まったように智は立ち尽くしてる。
メダカの水槽をぼけっと見つめてる。
小池さんはメイクさんと談笑してた。
ふと、智はこちらを見た。
驚いて目を丸くした。
口の動きだけでわかる。
かず、来てたの?
頷くと智は頬を染めた。
そしてもじっと足を動かす。
ちゃんと言いつけは守ってるようだな。
いい子だ
そう唇の動きだけで伝えると、また赤くなった。
「はい、チェック終了ですー!次のシーン行きます!」
そのままセットチェンジなしで、続きのシーンを取るようだ。
台本が智に渡され、ヘアメイクさんが智の回りに群がる。
助演さんからシーンについて、再確認され頷きながらも、ちらちらと俺を見る。
しょうがないな…集中しなさいよね…
用意してあったイスに座りながら、俺はじっと智を見た。
最近、体を鍛えてるからスーツがよく似合う。
伸ばした背筋は、普段見せることがないものだから、新鮮だった。