第5章 ロザリオ
「潤、どうしたんだよ…何してんだよ」
「見えないの?翔くん…黒い影がいっぱいいる…」
「潤…」
「くるなっ翔くんに触るなっ…」
腕を振っても振っても影は振り払えない。
「潤っ…」
翔くんが俺を抱きしめた。
「大丈夫だから…潤っ…」
「だめだっ…翔くんは隠れててっ…」
目の前が真っ暗になった。
影に包まれた。
「あああああっ…やめろおっ…」
何も見えない。
翔くんの顔も…何もかも見えない。
「潤っ…!」
汗で滑って翔くんの身体を上手く抱きしめることができない。
「翔くん動いちゃだめだ!」
「潤…大丈夫だから…大丈夫…」
ぎゅうっと翔くんが身体を密着させた。
そのまま俺の頭の後ろに手を回すと、手のひらで俺の頭を引き寄せた。
唇に温かいものが触れた。
「翔く…」
「潤…大丈夫だよ…潤…」
ずっと、翔くんは俺の名前を呼びつづけてくれた。
その響きは耳の底に、深く届いて頭に響いた。
その声に共鳴するように、俺の頭のなかでアヴェ・マリアが流れだした。
「翔くん…真っ暗だよ…」
「大丈夫…」
「なんにも見えないよ…」
「大丈夫だから…」
「翔くんの顔が…見えない…」
翔くんの掌が俺の頬を包んだ。