第76章 ヒソップ
「部屋はね…いいんだけどね。住んでるやつがアレだから…」
「ぶっ…」
いつもデスクの上も散らかってるから、大野さんに片付けろって言われることがあって…やっぱり笑われた。
「座ってよ」
リビングのソファに、大野さんが座った。
なかなか不思議な光景だ。
グレーの薄手のパーカーを羽織って、下には白いTシャツ。
ダークブルーのジーパンはダメージが入ってて。
髪はセットしていなくて、長い前髪が目に掛かってた。
スーツ姿以外見たことなかったから、ちょっと眩しかった。
「コーヒーでいい?」
「あ…課長…」
キッチンに入ろうとした俺の腕を掴んだ。
「…お構いなく…」
「あ、ああ…」
大野さんの手が、俺の腕を引くから隣に座った。
至近距離に、大野さんが居る。
またあのいい匂いが漂ってきて、どうしても心臓が煩くなる。
「…貸してください…」
「うん…」
もう、覚悟決めるしかない。
そっと大野さんの方に身体を向けて、ちょっとだけ腕を広げた。
大野さんは、メガネを外すとテーブルの上に置いた。
それからゆっくりと俺の胸に倒れ込んできた。
その小さな背中に腕を回して、抱きしめた。
「…ありがとうございます…」
「いいよ…」
ジム帰りで、Tシャツにジャージのままだから、大野さんの体温がダイレクトに伝わってきて、参った…