第73章 you have…
ずずずっとアイスコーヒーを一気飲みすると、智は立ちあがった。
「ありがとな。ニノ」
何も言わずに見上げると、智はちょっと照れくさそうに笑った。
「いいきっかけになったよ…ゲーム、楽しかった」
シッシと手を振ると、智は苦笑いして背中を向けた。
「じゃあな」
階段を降りていく智の姿をじっと見送った。
「ぶっ…振られてやんの…」
隣の席から、笑い声が聞こえた。
「うっさいなあ…」
そこには新聞で顔を隠した、潤と雅紀が居た。
「どーなることかと思ったけど…なんか、翔、すげくね?」
「おお。ニノの誘惑に負けねえんだもん…」
「そこに颯爽と現れる智…くぅ…カッコイイねえ…」
「な。もしかして…智、本気なのかな…?」
「案外マジだったりしてぇ~…だって、ニノの誘い断ったの初めてじゃね?」
目の前のテーブルに手を叩きつけた。
ガシャンとソーサーがずれて、コーヒーが溢れて手にかかった。
「……そんな訳無いでしょ……」
カランとスプーンが床に落っこちた。
ゲーム…
翔の家に入り浸って帰ってこない智に、俺はゲームをしようって提案した。
…いつものセフレだと思ってたのに…
あんな野暮ったい奴に夢中になってる智の目を覚ましたかった。
翔が俺の誘惑に勝つか、負けるか…
自信はあった。
なのに…俺が負けた。
「ニノ…」
「お、おまえ…何マジになってんだよ」
溢れたコーヒーを慌てて潤が拭いてる。
絶対
許さない
俺から離れていくなんて
「ニノぉ…」
雅紀が床に落ちたスプーンを拾って、恐る恐る俺を見上げた。
「雅紀…」
ぐいっと雅紀の顎を掴んだ。
「俺と寝たい?」
「えっ…う、うん…」
「じゃあ、俺の言うこと…きけるよね…?」
「き…きくっ…なんでもきくっ…」
「…潤は?」
潤を見ると、ごくりとつばを飲み込んだ。
「やる…なんでも…」
翔…
「…退屈だから…ゲーム、しよっか?」
一番、俺の欲しいものを奪って行ったお前…
絶対、許さない
【END】