第2章 翼をもがれた竜-episode0-
よく晴れた日の夕方、俺はビルの屋上に上る。
おんぼろビルだから、屋上の鍵は開きっぱなし。
タバコに火を着け、夕日を眺める。
ビルの谷間に落ちていく夕日を、見えなくなるまで眺めているのが、俺は好きだ。
「あ、こんなところに…若頭」
若衆が俺を探して上がってきた。
「なんだ。邪魔するな」
「すいません。組長がお呼びで…」
「…わかった」
階段を駆け下りるように進んで、組事務所に入る。
一番奥にある長部屋(おさべや)と呼んでいる部屋に入る。
俺は極東翼竜会大野組の若頭、櫻井翔だ。
窓際のデスクに座るのは組長の大野智。
俺が、命を預けている極東翼竜会のホープだ。
「組長、お呼びですか?」
「ああ。こっちこいよ」
組長は鋭い眼光で俺を一瞥すると、俺を呼び寄せた。
「お前、今日の夜何もなかったよな?」
「はい。今日は会食の予定などありません」
「…脱げよ」
鋭い眼光は、俺の身体を舐め回すように見ていた。
「…はい」
ジャケットを脱ぎ捨て、スラックスを脱ぎ全裸になる。
組長は部屋の鍵を閉めると、ゆっくりと服を脱ぎ始めた。
ソファに座ると、また俺を見上げた。
「来いよ」
その声に引き寄せられるように、俺は組長の身体に覆いかぶさった。