第73章 you have…
最近、お気に入りのクラブができた。
そこでは知らない人でも友達みたいに喋って、一緒に酒を飲む。
音の洪水みたいな音楽に身を任せながら、なんにも考えないで居られるその空間が、俺にはとても居心地が良かった。
仕事が終わって家に帰ると、私服に着替えて繰り出す。
誰と何の約束をしてるわけじゃないけど、行けば必ず友達のように迎えてくれるその空間に、俺は入り浸った。
最初は既に出来てる輪の中に呼んでもらって、ただ皆が喋ってるのを聞いているだけだった。
でもそのうち、顔見知りから一段進んで…
今では、俺が行くと待ってましたとばかりに友人たちが集まってくる。
「翔!今日も仕事?」
「うん」
「ひょー…あれだろ?スーツ着てんだろ?」
「ああ…まあね。サラリーマンだから」
「すっげえね!尊敬するよ!」
「なんだよ…来年には雅紀だって就職だろ?」
一番俺のことかまってくれる一個下の大学生の雅紀。
いつもにこにこ笑って、人の輪を作ってくれる。
「あ、今日は俺のダチ紹介するよ。ニノー!」
雅紀が後ろを振り返って友達を呼ぶ。
俺も振り返ると、小柄で色の白い男がこちらに歩いてきてた。
「こいつ、俺のダチでニノっての。すんげえ、金持ちのボン。ここ来るのは久しぶりでさ。翔は会ったことねえだろ?」
「あ、うん…よろしく。俺、翔っていうんだ」
「…よろしく。俺、ニノ」
ニッコリ笑うと、手を差し出してきた。
握手しようってことだろう。
その手を握ると、ぐいっと引き寄せられた。
「うわっ…」
どすんっとニノの身体にぶち当たった。